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広島地方裁判所 平成9年(ワ)1118号 判決

主文

一  被告井上香及び同前出博治は各自、原告大田靜子に対し、金二〇一〇万三一一三円及びこれに対する平成八年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告住友海上火災保険株式会社は、原告大田靜子に対し、金二〇〇八万七六二二円及びこれに対する平成八年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告井上香及び同前出博治は各自、原告大田文子に対し、金一七六万円及びこれに対する平成八年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告住友海上火災保険株式会社は、原告大田文子に対し、金一七六万円及びこれに対する平成八年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用については、原告大田靜子に生じた訴訟費用はこれを五分し、その一を被告らの負担、その余を原告大田靜子の負担とし、原告大田文子に生じた費用はこれを二分し、その一を被告らの負担、その余を原告大田文子の負担とする。

七  この判決は、第一ないし四項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  原告大田靜子

被告らは各自、原告大田靜子に対し、金九五一八万四一九〇円及びこれに対する平成八年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告大田文子

被告らは各自、原告大田文子に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成八年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、大田智之(以下「智之」という。)運転の自動二輪車と被告井上香(以下「被告井上」という。)運転の普通乗用車が衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)によって智之が死亡したことにより、原告らが、被告井上に対し不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告前出博治(以下「被告前出」という。)に対し自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償を、また、被告住友海上火災保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)に対し、智之と同社間の無保険車傷害特約付損害保険契約に基づき保険金の請求をそれぞれ求める事案である。

一  本件の基礎となるべき事実

1  本件事故の発生(原告らと被告らとの間で争いがない。)

平成八年一一月一二日午前一一時〇七分頃、智之が自動二輪車(車両番号広島や五四二四。以下「智之自動二輪車」という。)を運転し、国道五四号線(通称祇園新道)(片側五車線)の内中央分離帯から四車線目(以下「第四車線」という。)を高陽町方面から広島市街地方面に向けて進行中、広島市東区牛田新町一丁目三番四一号和田ビル先の交差点(以下「本件交差点」という。)において、被告井上運転の普通乗用車(三重三三ふ三八五七。以下「被告井上車両」という。)が反対方向から進行して右交差点を右折しようとしたため、智之自動二輪車が被告井上車両の左後部ドアに衝突し、その結果、智之は、右同日、頸惟損傷により死亡した。

2  被告井上車両

被告井上車両は、平成六年四月一日に登録された普通乗用車で、その所有者は被告前出として登録されている(甲三)。

3  智之と被告保険会社との保険契約の締結等(原告らと被告保険会社との間で争いがない。)

智之は、平成七年一一月一四日、被告保険会社との間で概ね次の約定の自動車総合保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)。

(一) 保険期間 平成七年一一月一四日から同八年一一月一四日午後四時まで

(二) 被保険車両 智之自動二輪車

(三) 無保険車傷害特約 無保険自動車(その自動車について対人賠償保険等がない場合)の所有、使用又は管理に起因して、正規の乗用車構造装置のある場合に搭乗中の被保険者の生命が害されること又は身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じることによって被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害について、賠償義務者がある場合に限り、その賠償義務者が法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任額を被告保険会社が保険金請求権者に支払う。

なお、被告井上車両には自動車損害賠償保障法に基づく責任保険以外の対人賠償保険等はなかった。

4  智之の本件事故時の状況及び智之と原告らとの関係

智之は、昭和四九年一〇月一二日生まれで(甲五)、平成六年四月、広島修道大学商学部経営学科に入学し、本件事故当時、同大学三年生で独身者であった(甲九の1)。なお、原告大田靜子(以下「原告靜子」という。)は智之の母、原告大田文子(以下「原告文子」という。)は同人の姉である(甲五)。

5  損害の填補(原告らと被告ら間で争いがない)

原告靜子は、被告井上車両の自動車損害賠償保障法に基づく責任保険に基づき三〇〇〇万円の支払を受けた。

二  原告らの主張

1  本件事故の態様について

本件事故現場道路は、片側五車線の広い道路であり、交通規制による最高速度も時速六〇KMである。したがって、青信号のもとで右折する場合には、右折車は慎重の上にも慎重でなければならない。そして、智之自動二輪車のように本件事故現場道路第四車線を直進する車両にとっては、反対車線から右折してくる車両はもはや右折車両というよりも、赤信号で右道路を横断してくる車両と同様であって、そのような車両が通過することは予測し難いものである。

2  損害

(一) 原告靜子についての損害

(九五一八万四一九〇円)

(1) 葬儀費用 三〇八万六二三八円

(内訳は別紙計算書番号14ないし55)

(2) 文書代 三万六八七〇円

(内訳は別紙計算書番号1ないし13)

(3) 智之自動二輪車牽引代

一万九三六四円

(4) 智之の逸失利益

八四三四万一七一八円

原告靜子は、昭和六〇年九月二九日に夫大田照曹が死亡して以来、原告文子と智之を女手一つで育てあげてきて、原告文子が就職した後、智之が就職するのを楽しみにしていた、智之が就職した暁には、母子家庭の中の唯一の男性として一家の支柱となることは明らかであるから、同人は、形式的には男子単身者であるとはいえ、実質的には一家の支柱の存在であると考えるべきである。

そこで、基礎収入六七七万八九〇〇円(平成七年男子新大卒労働者全年齢賃金センサス)、生活費控除率0.3、就労可能年数四五年のライプニッツ係数17.7740に基づき、次のとおり算出する。

6,778,900円×(1−0.3)×17.7740=84,341,718円

(5) 智之死亡による慰藉料

二六〇〇万円

(6) 損害の填補 三〇〇〇万円

(7) 原告靜子固有の慰藉料

三〇〇万円

(8) 弁護士費用 八七〇万円

(二) 原告文子の損害

(三三〇万円)

(1) 原告文子固有の慰藉料

三〇〇万円

原告文子は、本件事故直前である平成八年秋、再生不良性貧血の難病に罹患していることが判明し、骨髄検査の結果、原告文子の病状が悪化した場合に骨髄移植のできる適応性のある者は智之しかいないこともわかっていた。そのため、原告文子にとっては、智之の存在は自己の生命維持のためにも不可欠であった。

(2) 弁護士費用 三〇万円

三  被告井上及び同前出の反論

1  事故態様について

被告井上は、本件交差点を右折する際、衝突場所から高陽町方向81.4Mの地点を進行する智之自動二輪車を確認し、また、その地点付近の第五車線を普通乗用自動車が右自動二輪車と併走していた。しかるに、普通乗用自動車は被告井上車両とは衝突せず、智之自動二輪車が衝突したのは、智之自動二輪車が制限速度を超える時速八〇KMで進行してきたためである。

2  被告前出の責任について

被告井上車両について、所有者の登録名義は被告井上の父である被告前出名義であるものの、被告井上夫婦が右車両を占有管理しており、被告前出は、右車両の購入代金も負担していないし、占有管理をしたこともない。

3  損害額について

原告ら主張の損害額はいずれも過大又は不相当である。

四  被告保険会社の反論

1  事故態様について

被告井上及び同前出の反論1と同旨。

2  損害額について

被告井上及び同前出の反論3と同旨。なお、原告靜子は、智之自動二輪車の牽引代を損害として請求するものの、物的損害は、本件保険契約に基づく保険金の支払対象とはなっていない。

五  争点

1  被告井上の責任

2  被告前出の責任

3  原告らの損害額

4  過失相殺

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告井上の責任)について

本件の基礎となるべき事実1に証拠(甲一〇、被告井上)を総合すると、本件事故現場道路はアスファルト舗装がなされ平坦な片側五車線の道路であること、本件交差点は信号機により交通整理が行われていること、被告井上車両は、平成八年一一月一二日午前一一時〇七分頃、本件事故現場道路を広島市街地方面から進行し、本件交差点で右折するため、本件交差点(中央部)の手前46.7Mの地点で進行方向の信号機が青信号であること確認した上減速したこと、被告井上車両は、本件交差点において右折レーンに入って同交差点中央部に寄り、その際、対向車線の第四車線を衝突場所から高陽町方向81.4Mの地点において広島市街地方面へ進行する智之自動二輪車を発見したこと、被告井上は、右折開始後においては進行方向のみ注視していたこと、そして、本件交差点において、智之自動二輪車が被告井上車両の左後部ドア付近に衝突したことが認められる。

右折車両の運転手としては、右折に際して、反対車線を走行する車両の走行状態に十分注意し進路の安全を確認して進行する注意義務があり、特に、右認定のとおり、本件事故現場道路のように片側五車線の道路において右折する場合には、右折を完了するまでに通常より時間を要するのであるから、反対車線を走行する車両との距離及び右車両の速度について一層注意する義務があると解されるところ、右認定のとおり、被告井上は、右折開始時に対抗車線を進行する智之自動二輪車を確認しながら、右自動二輪車が本件交差点を通過する前に右折できると軽信し、加えて、右折開始後においては智之自動二輪車の進行状況を確認しなかった過失が認められる。

二  争点2(被告前出の責任)について

本件の基礎となるべき事実2のとおり、被告井上車両の所有者は被告前出として登録されているので、被告前出が自動車損害賠償保障法三条のいわゆる「運行供用者」としての責任を負うかが問題となる。

ところで、被告前出は、被告井上車両を占有管理していたのは被告井上夫婦であり、自己は何ら占有管理していない旨主張し、被告井上は、右主張に沿って、右車両は被告井上の夫の所有であり、車庫証明の取得及び夫の将来の転勤も考慮して被告前出を所有者として登録した旨供述する。

自動車損害賠償保障法三条の「運行供用者」とは、実質的に当該車両の運行支配あるいは運行利益の帰属する者であると解すべきであるから、単に被告井上車両の登録について被告前出が被告井上又は同人の夫に名義を貸与したのみでは「運行供用者」とまで認めることはできない。そして、被告井上は、前記のとおり、右車両は被告井上の夫の所有である旨供述し、本件事故当時、被告井上及びその夫は広島市東区に居住していると推認される(甲一)ところ、被告前出は三重県上野市に居住しており(甲三、弁論の全趣旨)、右一の認定のとおり、被告井上は広島市内である本件現場道路を走行していたことからすると、被告井上又は同人の夫が被告井上車両を占有管理していたと窺われる事実も存するものの、被告井上は、被告井上車両の購入代金は同人の夫が支出した等供述するが、それらの事実を裏付ける証拠はなく、また、被告井上の供述によっても、被告前出は右車両の所有者として登録されることを承諾していたこと(被告井上調書二二項)、さらに、被告井上車両が被告前出名義で登録されていること自体被告前出が何らかの意味で右車両を占有管理していると強く推定されること等の諸事情を総合勘案するならば、被告前出に自動車損害賠償保障法三条の「運用供用者」としての責任を認めるのが相当である。

三  争点3(原告らの損害額)及び争点4(過失相殺)について

1  原告靜子の損害額

(一)(1) 葬儀費用

原告靜子は、初七日及び四九日の法要に支出した費用を含め葬儀費用として合計三〇八万六二三八円を請求するものの、本件事故当時の智之の年齢及び社会的地位等(本件の基礎となるべき事実4)を勘案するならば、本件事故と相当因果関係にある葬儀費用は一二〇万円と認めるのが相当である。

(2) 文書代

原告靜子は、別紙計算書のとおり、文書代として三万六八七〇円を請求するところ、浴衣代を含めた右文書代は、本件事故のため又は右事故に基づく請求をするために要した費用と認められ(甲七の1ないし13)、本件事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。

(3) 智之自動二輪車牽引代

原告靜子は、智之自動二輪車牽引代として一万九三六四円を請求するところ、右牽引代は、本件事故現場から智之自動二輪車を牽引する費用と認められる(甲八の1、2)から、本件事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。

なお、本件保険契約においては、「搭乗中の被保険者の生命が害されること又は身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じる」場合の損害を対象とするもの(本件の基礎となるべき事実3(三))であり、右智之自動二輪車牽引代のように物的損害を対象とするものではないことが認められる。

(4) 智之の逸失利益

智之は、昭和四九年一〇月一二日生まれで、本件事故当時、二二歳の男子独身者で、広島修道大学商学部経営学科三年生に在籍していた(本件の基礎となるべき事実4)のであるから、基礎収入を賃金センサス平成八年第一巻第一表男子労働者学歴計大卒二〇ないし二四歳三一九万六〇〇〇円を基に、就労可能年数四五年の新ホフマン係数23.2307、生活費控除率五〇%を適用して算出すると、智之の逸失利益は三七一二万二六五八円と認められる(円未満切捨て。以下同様)。

3,196,000円×23.2307×(1−0.5)=37,122,658円

なお、原告靜子は、智之が実質的に一家の支柱であるとして生活費控除率を三〇%とすべきである旨主張するが、右のとおり、智之は、本件事故当時、独身者であったのであるから、右主張を採用することはできない。

(5) 智之の死亡慰藉料

智之は本件事故により事故当日に死亡したこと(本件の基礎となるべき事実2)及び右(4)記載の本件事故当時における智之の状況に鑑みるならば、本件事故と相当因果関係にある智之の死亡慰藉料は二〇〇〇万円であると認めるのが相当である。

(6) 本件靜子の固有の慰藉料

本件基礎となるべき事実4に証拠(甲五、九の1、2、原告靜子)を総合すると、智之の父であり且つ原告靜子の夫である大田照曹が昭和六〇年九月二九日に死亡し、原告靜子は、当時、中学校二年生であった原告文子及び小学校五年生であった智之を右以降一人で養育監護し、原告文子及び智之ともに大学に進学させたこと、原告靜子は、必ずしも健常な身体とはいえないものの、原告文子及び智之を養育するため、昭和六三年八月以降、広島精密工業株式会社に勤務し継続して稼働してきたこと、智之の姉であり且つ原告靜子の長女である原告文子は、大学卒業後就職したが、本件事故の直前である平成八年九月、再生不良性貧血と診断され緊急入院し、右疾病が悪化した場合には骨髄移植を要するところ、検査の結果、智之は原告文子に骨髄を移植できることが判明していたことが認められ、右認定事実のとおり、原告靜子は、夫の死亡後、智之及び原告文子を養育監護し、智之が大学卒業後独立することを楽しみにして継続して稼働してきたと推認されること、また、智之が本件事故により死亡しなければ、文子に骨髄を移植することが可能であったにもかかわらず、右死亡により文子の母としての期待も裏切られたこと等の諸事情に鑑みるならば、本件事故で智之が死亡したことにより原告靜子固有の精神的損害が生じたと認められ、右精神的損害は二〇〇万円の支払をもって慰藉するのが相当であると認められる。

(二) 過失相殺

前記一の認定事実に証拠(甲一〇)を総合すると、本件事故現場道路においては、智之自動二輪車の進行方向に向かって本件交差点内の右折車を確認するのに妨げる障害物は何らなかったこと、被告井上車両が右折を開始し本件交差点内中央部に入った時点で智之自動二輪車は衝突場所から高陽町方向81.4Mの地点を進行していたこと、智之自動二輪車のスリップ痕は本件交差点内において衝突場所から7.9Mの長さにすぎないこと、智之自動二輪車は被告井上車両の後部ドアに衝突したことが認められ、右認定事実によると、智之においても前方不注視が認められるとともに、智之自動二輪車の進行速度は特定できないものの、制限速度を超過していたこともあながち否定できないこと等の諸事情を総合勘案するならば、本件事故の過失割合は、被告井上八割、智之二割と認めるのが相当である。

なお、被告らは、智之自動二輪車の進行速度との関連において、右自動二輪車と並行して本件事故現場道路第五車線を広島市街地方面に進行していた普通乗用自動車が存在していた旨主張し、被告井上も右主張に沿う供述をするものの、仮に当時右普通乗用自動車が走行していたとしても、被告井上の供述自体、右普通乗用自動車と智之自動二輪車の位置関係等曖昧である(被告井上調書一四項)ので、右供述部分を斟酌することは困難である。

(三) 損害の填補と相続関係

原告靜子は、智之の死亡により同人を相続した(本件の基礎となるべき事実4)ところ、前記(一)(1)ないし(6)(なお、(1)ないし(5)の損害額が相続分に該当する。)で認定した損害額合計六〇三七万八八九二円から智之の過失割合(二割)を控除すると、四八三〇万三一一三円となり、原告靜子は被告井上車両の自動車損害賠償保障法に基づく責任保険基づき三〇〇〇万円の支払を受けた(本件の基礎となるべき事実5)のであるから、右既払額を控除すると、一八三〇万三一一三円となる。

本件事案に照らすならば、本件事故と相当因果関係のある原告靜子の弁護士費用は一八〇万円であると認めるのが相当である。

(1) 被告井上及び同前出に対する損害賠償請求

原告靜子の被告井上及び同前出に対する損害賠償請求は、二〇一〇万三一一三円及びこれに対する不法行為の日である平成八年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由がある。

(2) 被告保険会社に対する請求

前記三1(一)(3)の認定のとおり、智之自動二輪車牽引代は本件保険契約の対象とならない物的損害であるから、原告靜子の被告住友火災に対する保険金請求については、前記(一)(1)ないし(6)で認定した損害額合計から智之自動二輪車牽引代一万九三六四円を控除した六〇三五万九五二八円から、右(1)と同様、智之の逸失割合及び既払額を控除すると、一八二八万七六二二円となる。なお、弁護士費用は、右(1)と同様、一八〇万円と認めるのが相当である。

したがって、原告靜子の被告保険会社に対する保険金請求は、二〇〇八万七六二二円及びこれに対する不法行為の日である平成八年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由がある。

2  原告文子の損害額

(一) 原告文子の固有の慰藉料については、前記1(一)(6)の認定のとおり、原告文子にとっては、単に弟として智之を失っただけではなく、自己が罹患している再生不良性貧血の治療のための貴重な骨髄提供者を失ったともいえ、右精神的損害は原告文子の固有慰藉料として評価すべきであると解され、右精神的損害は二〇〇万円の支払をもって慰藉するのが相当であると認められる。

(二) 右損害額から、前記1(二)の認定の智之の逸失割合二割を控除すると、一六〇万円となる。

本件事案に照らすならば、本件事故と相当因果関係のある原告文子の弁護士費用は一六万円であると認めるのが相当である。

(1) 被告井上及び同前出に対する損害賠償請求

原告文子の被告井上及び同前出に対する損害賠償請求は、一七六万円及びこれに対する不法行為の日である平成八年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由がある。

(2) 被告保険会社に対する請求

本件保険契約の無保険車傷害特約においては、「被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害」と規定されており、被保険者の兄弟は含まれていない(本件の基礎となるべき事実3)ものの、右規定の保険金請求権者は例示として列挙されていると解するのが相当であり、右一の認定のとおり、原告文子は智之の死亡により近親者として精神的損害を受けたと認められるから、原告文子も本件保険契約における保険金請求権者であると認められる。

したがって、原告文子の被告保険会社に対する請求は、一七六万円及びこれに対する平成八年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由がある。

四  以上の次第で、主文のとおり判決する(なお、原告らの被告井上及び同前出に対する請求と被告保険会社に対する請求の関係は、被告らのいずれかが弁済すれば、他方の債務は代位関係を除き原告らとの関係では消滅する関係にあると解する)。

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